議会での質問・討論(詳細)
2010年11月26日

【2010年12月議会】「意見書提出に対する反対討論」 白井まさ子

 私は、日本共産党を代表し、議第10号議案につて反対討論を行います。
 同議案は、横浜市教職員組合が自由社発行の中学校歴史教科書を批判し、採択撤回を求める署名活動を行い、副教材として資料集を作成し、組合員に配布した一連の行為を教科書不使用運動ととらえ、職員団体としての活動範囲を逸脱しているとして、こうした行為を制限する立法措置を国に求める意見書を提出するものです。

戦争賛美の自由社版中学歴史教科書

 そもそも自由社版歴史教科書は、文科省の検定を合格したものですが、内容に大きな問題点があります。扶桑社発行の歴史教科書と同様、「新しい歴史教科書をつくる会」主導で編集されており、太平洋戦争を「『自存自衛』のための戦争」と描くなど、侵略戦争の美化の立場に立っています。侵略戦争と植民地支配への反省とその誤りの清算は、戦後日本が国際社会に復帰した際の前提条件であり、戦後の日本社会の原点です。それを否定するような歴史教科書が国内外から強い批判をあびており、検定合格とした政府の責任は重大です。
 また、侵略戦争と植民地支配についての歴史の真実を知り、その反省の上に平和と民主主義の日本国憲法があることを学ぶことは、子どもたちが主権者として育ち、世界の人々と手をたずさえて生きていくうえでの大前提です。歴史教科書の検定合格をはじめ、「あの戦争は正しかった」とする歴史への逆流は許されるものではありません。

教科書取扱審議会の答申無視して採択

 自由社版歴史教科書は内容の問題点に加え、教育委員による採択についても重大な落ち度があったことは歴然です。
 第1に、教科書取扱審議会の答申を完全に無視したことです。審議会は、区ごとに、学習実態を踏まえ、望ましい教科書として4ないし7の基準・観点を示し、もっとも相応しい教科書を基準・観点ごとに選んでいます。自由社が採択された8つの区での答申では、自由社がもっとも相応しいとした基準・観点は1点だけでした。それ以外の基準・観点では、自由社・扶桑社以外の2社がもっとも相応しいとしています。しかも、答申は、自由社については、「他民族の生活や文化の扱いがやや弱く、生徒の多様な見方や考えを育てるにはやや適さない」と問題点を指摘しています。
 審議会は条例で設置された機関です。その審議会の答申をまったく無視し、逆の判断をすることは、議会が承認した条例をないがしろにした市民への挑戦でもあります。
 第2に、教科の中で歴史についてのみ無記名投票としたことです。教育委員として、公開で態度を示してこそ、責任ある対応と言えるのではないでしょうか。市民への説明責任を果たさない投票方法による採決に正当性はありません。

事実誤認・副教材選択を制約する教育委員会の警告・通知

 こうした経過の中で、教職員組合は、自由社版歴史教科書を使用するにあたり、教員の指導上の戸惑いを払拭し、子どもたちの学びを保障する観点から、資料集を作成し、組合員に配布しました。この資料集に関して、教育委員会は教職員組合に対して、今後このような文書を配布しないことを求めた警告を、4月28日付で出しました。また、各学校長へ、採択した教科書を必ず使用しなければならないとして、教員の管理監督などを適切に行うよう通知を出しました。この警告と通知は、看過できない重大な問題点があり、私たち日本共産党市議団は警告ならびに通知の撤回を求める申し入れを行ったものです。
 問題の第1に、警告・通知に至る事実認定が誤っていることです。警告は、「この資料集は、昨年8月の中学校の教科書採択を否定する内容となっている」とされています。また、通知は採択教科書の使用義務に、わざわざ触れています。確かに、資料集の巻頭にある「はじめに」では、歴史教科書の採択方法について批判しています。しかし、「今年から市内8区で1万7000人の中学生が、自由社版の中学校歴史教科書を使い、学習します」とあるように、自由社版の教科書使用を拒否しているものでも、不使用を勧めているわけでもありません。職員団体が採択の仕方に対して、批判し、やり直しを求めることは組合活動の一環であり、言論表現の自由に含まれるものです。資料等の作成・配布行為を、法令違反行為をあおっているとの決めつけは問題です。
 第2に、教員の副教材選択を制約していることです。ILO・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」では、「教員職は専門職としての職務の遂行に当たって学問上の自由を享受すべきである。教員は生徒に最も適した教材および方法を判断するための格別に資格を認められたものである」「監督制度は、教員がその職業上の任務を果たすのを励まし、援助するように計画されるものでなければならず、教員の自由、創造性、責任感を損なうようなものであってはならない」とあるように、副教材の選定は教員の裁量に委ねられています。

間違いだらけの自由社版歴史教科書

 その後、新たな問題点が発生しました。自由社版歴史教科書は間違いだらけの教科書だということです。同教科書は2008年の教科書検定審議会で欠陥・間違いが516か所指摘され、2009年にも自ら40か所を訂正しています。
 この教科書が配布された多くの中学校の1年生は9月から使用が始まり、授業が進む中で、写真が裏焼きされて左右が逆になっているものや、史実の記述、編集上のミスなどが20か所以上も教育現場から報告されました。11月に入り、発行者の自由社が写真の裏焼きミス7か所についての「お詫びと訂正のリーフレット」を生徒に配布しました。これらのミスは検定前から研究者により指摘されていたもので、4月に教科書が生徒の手にわたった後も、さらに半年も放置されたままでした。
 採択した教育委員会としての責任は重大です。教育委員会として、記述、編集上のミスなどの調査を行い、誤りが明らかな場合、教科書を回収して訂正版を配布するよう発行者へ指示すべきです。発行者まかせではあまりにも無責任すぎます。今、問われているのは教職員組合ではなく、教育委員会の姿勢・態度です。

行政による教育統制は権力による支配

 最後に、意見書そのものに対して言及します。「職員団体が教科書を批判し、採択撤回署名活動、教科書不使用運動を指示することは、職員団体の活動範囲を逸脱している」とされていますが、歴史の事実の記述、採択方法、ミスのある欠陥商品が放置されたままの教科書を職員団体が批判し、採択撤回署名活動を行うことは当然のことです。教員としての崇高な使命感に基づいた正義の行為です。また、資料集を配布したことは、教科書を使用することを前提とした教材研究活動であり、教科書不使用運動を指示するものではなく事実誤認です。資料集を発行したことは、組合員にニュースとして配布したもので、組合活動の一環として行われたもので、何ら問題ではありません。活動範囲を逸脱しているものではありません。
 また、意見書では、「教科書採択、不採択運動、撤回運動といった行為や教唆・扇動行為の制限に関する立法措置を講じるよう」要望していますが、教員を監視し、行為に制限をつけることは、憲法で保障された表現の自由への不当な規制になりかねません。しかも、行政による教育統制は、権力による支配に当たります。戦前への回帰を匂わせるもので、時代錯誤も甚だしいもので、一番目の討論の委員と同感です。
 横浜市議会が意見書採択となれば、全国から民主主義の感度が疑われ、笑いものの象徴となることは必至ですから、賢明な判断をしようではありませんか。意見書提出することのないよう申し上げて、反対討論といたします。


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