◎質問と市長答弁は次の通りです。なお、実際には、質問と答弁がそれぞれ一括して行われました。
急いで新たなMICE施設をつくる根拠は極めて薄い
宇佐美議員:宇佐美さやかです。日本共産党を代表して質問します。
まず、市第141号議案「みなとみらい21地区中央地区20街区MICE施設整備事業に伴うみなとみらいコンベンション施設整備事業契約の締結について」です。
20街区でのMICE施設整備事業は、PFI事業とするコンベンション施設整備と民間によるホテル建設によって構成されています。本議案は、そのうち多目的ホールと会議棟を内訳とするコンベンション施設事業について、一般競争入札で応札した竹中工務店グループを落札者とし、同グループと約378億円で事業契約を結ぼうというものです。2020年東京オリンピックの年4月に開業し、契約終了期日は2040年度末としています。
当該地区付近には、国立大ホール、展示ホール、会議センター、ホテルなどを擁するパシフィコ横浜がありますが、これに加えて多目的ホールと会議場、さらにホテルを新たに建設する計画です。厳しい財政状況の中で巨費を投入する事業の成算について、市は「首都圏のMICE施設の稼働率が高く、国際会議の開催需要に応えられていない実情にあり、既存施設においても多くの開催機会を損失している。東京オリンピックが開催されることから、首都圏において更なるコンベンション施設の不足が予想される」と、胸を張っています。
しかし、現実を直視すると、さまざまな疑問がわいてきます。市が誘致したい国際会議に関しては、2014年の国際会議開催統計ICCAの発表の中で、日本の都市では、横浜が18件、それに比べて東京は90件と、東京との競争では負けている実態です。さらに、パシフィコ横浜の経済波及効果の高い中・大型の国際会議開催実績は、2013年度は目標61件を下回る45件で、2014年度は目標75件を下回る49件でした。市自らが定めた目標にも届いていません。
さらに、東京では、三菱地所、三井不動産、住友不動産、森ビルなどによる国家戦略特区を利用したMICE施設整備が都心部で目白押しです。
また、一般社団法人日本展示会協会の2015年1月の発表によれば、2013年度の展示会数は、パシフィコ横浜での開催件数は5件です。それに対して、東京ビックサイトは190件です。なぜ、開催件数においてこのような差が生じたのか。その理由は、東京ビックサイトの展示場面積は約10万平米、パシフィコ横浜の展示ホールは約2万平米という桁違いの規模であり、交通利便性など地理的条件です。残念ながら冷静に見れば、今回提案されたMICE展示場等の施設を加えても、とても太刀打ちできません。さらに、オリンピックを目当てにするならばその需要は短期に限られています。
これらのことから、この新たなMICE施設を今急いで建設する理由は極めて根拠として薄いと考えますが、市長はなぜ、この新たな施設を急いで建設しようとしているのか、伺います。
林市長:宇佐美議員のご質問にお答え申し上げます。
市第141号議案について、ご質問をいただきました。
新たなMICE施設をつくる理由ですが、パシフィコ横浜は年間を通じて稼働率が大変高く、年間約3,800件のお問い合わせに対しまして、約2割の850件にしか対応できておりません。このため新たな施設を整備し、パシフィコ横浜との一体的利用により、大規模な国際会議や展示会等のMICE事業を積極的に取り組み、グローバルMICE都市の確立を目指してまいります。
宇佐美先生が今、数字を少しおっしゃっていただきましたが、ちょっとデータの取り方の問題だと思いますが、地域別では東京で行われる会議の開催件数は日本一なんですね。ただ、施設別ということになりますと、パシフィコ横浜が全国で1位で、2位がビッグサイトということでございます。これ、たとえば国際会議は少人数でやられる場合と、横浜みたく4,000人5,000人が参加するという大人数の会議とたくさんございますので、ちょっと件数で表すのは難しいし、会議の参加者だけでいうとパシフィコ横浜は日本一ですね。大型会議が圧倒的に多いというのが、まあホテルもあるし警備もしやすいということで、そういうところでちょっと数字を申し上げておきたいと思います。
手続き無視してのMICE施設建設計画は撤廃を
宇佐美議員:議案となっているコンベンション施設整備計画は、20街区の土地では不足として、街区の南側と東側に接する港湾2号線を廃道し、事業用地に編入しています。敷地面積1万2,649平米から2万1,105平米に広げて施設建設をするというものです。しかし、道路を廃止するためには議会の同意手続きが必要です。また、道路の廃止を伴う区画形質変更となり、開発許可の手続きが必要になります。さらに、本計画の区画はみなとみらい21地区の計画的なまちづくりを進める区域であるため、「横浜みなとみらいまちづくり基本協定」等のルールに従う必要があります。この手続きには、少なくとも道路局・建築局・都市整備局など関係局との綿密な協議、調整が必要となります。関係局との協議、調整はこれまでにどのように行われたのか、伺います。
私たちが調査したこところ、道路局・都市整備局・建築局のいずれの担当者も、道路の廃止をしたいということを文化観光局から聞いてはいるが、まだそういう計画があることを考えているだけで、道路廃止の手続きには着手していないということでした。
また、この道路廃止計画について説明を受けたこの近隣にお住まいの方たちは、この廃止予定の道路を使っていること、また、道路廃止の代替としてデッキを作るということで、この地域の景観や眺望がおかれされることなどの問題点を指摘し、廃止については納得をしていません。
一番の問題は、関係局との協議が整っていない、また一連の手続きもされていない状態での議案提出であり、前代未聞の由々しき事態です。さらに、関連道路の廃道について議会の同意という重要な手続きを無視したことは、二元代表制そのものを否定したものと言わざるを得ません。このような状況で提案された本議案は、いったん撤回すべきではないでしょうか、伺います。
私が事前に行った文化観光局のヒヤリングの中で、「もし、今後の議会で道路廃止の議案が可決されなかった場合、事業者側に違約金を払うのか」と聞いたところ、「損害賠償金を請求されることはあり得ます」と答えました。当然の手続きをしないことによって発生するリスクを承知しておきながら、それを回避しないまま進めることに対しては、党市議団として厳しく批判せざるを得ません。
林市長:関係局との手続きについてのご質問でございますが、すでに施設計画の条件整備など事務調整を行っていますが、施設建設等に関わる法的な手続きにつきましては、事業計画の締結後に、事業者が設計した具体の計画に基づき進めることが必要となります。本事業に伴う協議や手続きは、事業契約による事業者と計画案が決まった後に正式に進めるのが通常のプロセスです。従って、本議案を提出したことは何ら問題ないと考えております。
指定管理者制度導入施設では非正規雇用が主流
宇佐美議員:次に、指定管理者の指定に関する市第104号議案から市第138号議案までのうち、指定管理者の指定については、地方自治法117条により、議員が直接利害関係のあることについてはその議事に参与することができないという規定により、106号、126号及び128号議案の3件を除く案件についてです。
今回の指定対象となる施設は、約300です。その内訳は、従前の管理者が87%、従前の管理者から変更予定が8%、新規に管理者を指定予定が5%となっています。約300施設のうち株式会社が指定管理者となっているのは、61施設です。
今年7月3日、横浜市シルバー人材センター緑事業所が指定管理者の緑とコミュニティーグループから受注する長坂谷公園の管理業務について、神奈川労働局より労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第48条第1項に基づき、改善のための指導票が出されました。内容は、指定管理者である緑とコミュニティーグループから請負・委任を受けたシルバー人材センターの会員に対し直接作業指揮が命令され、始業、就業、就業日の指定などが行われるなど6項目におよびます。その全てが偽装請負にかかわるものです。
党市議団は、決算特別委員会でこの問題を取り上げ、その結果、シルバー人材センター所管の経済局からは11月26日付けで、緑とコミュニティーグループが指定管理者になっている10の公園の全業務においてシルバー人材センターからの会員を直接雇用に切り替え、神奈川労働局の指摘に基づいて適正就業に基づいた対応策を指摘された6項目に沿って行うとの報告がありました。しかし、なぜ労働局から指導票が出される事態になったのかを明らかにすることが必要です。
指定管理者制度運用マニュアルでは指定管理者による第三者への委託については、「その実態を必ず把握し、個別に状況を確認することが必要である」とし、指定管理者による労働関係法規の遵守を強く求めています。まさに、マニュアルが機能していなかったことが原因です。指定管理者制度のもとでの事業で、労働局から偽装請負にかかわり指導票が出される事態について、市長はどのように認識されているのか、伺います。
先日、党市議団は、有隣堂グループが管理・運営している山内図書館を視察しました。視察目的は、市内に設置・運営されている図書館のうち唯一株式会社に指定管理された図書館であることから、他の図書館との違いを知るためでした。中に入り、市民サービス等、他の図書館とは遜色なく、また館長の話では、入館者は増加しているとのことでした。しかし、事業報告書によれば、「貸出冊数・予約受付冊数・登録者数は減少傾向にあり、未登録者数を増やすことが課題であると考えている」となっています。昨年度の指定管理にかかる収支報告によると、公租公課が約555万円、本社経費として2,470万円が支出されています。本来、公営で行っていれば、この支出はしなくていいものです。指定管理者制度に代わったことで、市民の税金がこのような使われ方をすることについて、違和感を覚えます。
問題は、館長含め職員13人全員が1年更新の契約社員であることです。アルバイトが23人です。職員の推定平均年収は、収支報告書からの給与・賃金から試算すると、約320万円です。
図書館に指定管理者制度を導入することについて、元鳥取県知事で図書館経営に詳しい片山義博慶応大学教授は新聞報道で、「指定管理者は一般的に3年から5年。次の契約で、別の管理者に変わる可能性がある。スタッフも一年契約がほとんど。図書館は歴史や文化など、地域の知的財産を保存し、将来にわたって提供する施設。それに適した人材を時間をかけて養成するのに、この制度はなじまない」と、述べています。指摘された雇用の実態は、山内図書館も例外ではありませんでした。
同様に、今回提案されている横浜こども科学館の職員44名の内訳は、正規の職員が1名、非正規の契約社員が34名、アルバイト9名となっています。職員1人あたりの人件費は、事業者の収支報告書からの試算では、375万円です。これには法定福利費や通勤手当も含まれていますから、年収は350万円を下回ります。
事業者側からすれば、指定管理期間があるために、雇用者は契約社員とせざるを得ないという事情があるのです。それが指定管理者制度の根本的な欠陥の一つです。
このように、本市で指定管理者制度が導入された施設でも非正規雇用が主流となり、「官製ワーキングプア」が進行していると考えますが、市長の認識を伺います。
指定管理者制度は、定額の指定管理料の下で利益を上げるためには、いかに経費を削減するかにかかってきます。その最大の決め手は人件費を安く抑えることです。まさに、指定管理者制度を継続することは、結果的に非正規雇用による低賃金で不安定な労働条件で働く市民を生み出すという、抜け出すことが出来ない環(わ)・ループにますます陥ることになります。市長が本当に市民生活と雇用を守るとおっしゃるならば、営利企業の参入を規制し、直営施設であった施設については元の直営に戻すなど抜本的な見直しが必要と考えますが、市長の見解を伺います。
林市長:市第104号議案から市第138号議案の指定管理者の指定について、ご質問いただきました。
指定管理者から受注した業務に関連して、労働局から指導票が出されたことについての見解ですが、横浜市シルバー人材センターが労働者を派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準に照らし、適切ではないという助言、指導を受けたことに関しては、本市も重く受け止めております。指導の対象となった公園の管理業務にかぎらず、シルバー人材センターの受託している他の業務に関しても、就業する会員のみなさまが安心して働くことができるよう、適正就業に向けてしっかりと改善してまいります。
指定管理施設の雇用についての認識でございますが、近年、働き方が多様化しております。基本的には雇用者と労働者の関係において、その雇用形態を選択しているのだと考えています。指定管理施設では、労働関係法規の遵守のもと、それぞれの設置目的を達成するために必要な体制になっていると認識をしています。
直営施設に戻すべきとのことでございますが、指定管理者制度は民間事業者のアイデアやノウハウを活用しながら、公の施設における市民サービスの向上と、経費の節減を図ることなどを目的として、適切に運用してまいりました。今後とも施設の特性に応じた適切な管理運営を進めてまいります。
情報漏えいなどで多くの市民が不安のマイナンバー制度
宇佐美議員:最後に、市第94号議案「横浜市行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の施行に関する条例の一部改正について」です。この特定の個人を識別するための番号とは、いわゆるマイナンバー制度のことです。今回の提案内容は、庁内の情報連携の規定を追加することをはじめ、神奈川県在宅重度障害者等手当支給条例による手当の支給に関する事務についての庁内の情報連携ができるようにすることなどがあります。
問題は、マイナンバー制度導入について考えられるリスクが未だに解決されていないどころか、情報漏えいという事故が全国で起き、この制度に対する不安を払しょくする手立てを国が全く取っていないことです。
市長は、9月議会での党市議団の質問に、「マイナンバー制度は法律に基づき、全国で実施するものであり、本市としても制度趣旨を踏まえ、適切に準備を進めてまいります。市民のみなさまの間にも個人情報の漏えいや不正利用に対する不安があることは承知しております。全国的に進められている制度面やシステム面での安全安心な取り組みに則り、適切に対応してまいります」と答弁しています。
しかし、マイナンバー制度に不安はあるかというTBSが10月3日4日に行った世論調査では、不安はあると答えたのは79%で、不安はないの17%をはるかに上回るという結果でした。漠然とした不安だけでなく、以前から党市議団が指摘している情報漏えいへの危惧も未だに拭いきれていない問題です。
事実、鶴見区では10月27日、転出証明の誤交付があり、1世帯3人分のマイナンバーや転出予定先の住所、氏名などの個人情報が漏えいしたと発表し、総務省によると、窓口業務でのマイナンバー漏えいは初めということでした。10月5日から転出証明書にはマイナンバーが記載されています。同区戸籍課によると、26日午後4時頃、区内の女性が転出届を提出。同区職員が番号の記された引き換えカードを女性に渡した後、同じ番号のクリアファイルに転出届を入れて入力作業を行ってしまい、職員が違う番号を読み上げ、別の女性に転出証明書を交付してしまったということが、新聞で報道されました。
この制度が個人情報漏えいの危険性が高く、憲法が保障するプライバシー権を侵害するとして弁護士や住民が12月1日に国を相手に、マイナンバーの利用停止や削除などを求めるマイナンバー違憲訴訟を全国5地裁でいっせいに起こしました。横浜地裁へは第二陣で行われると報じられています。これらの事実は、マイナンバー実施強行の弊害を示すものです。市長は、来年1月の運用に突き進むのではなく、凍結・中止を国に求めることが必要です。
このように、国民の理解も不安解消も進んでおらず、本市でも情報漏えいが起きてしまったことについての市長の見解を伺います。
さらに、心の性と体の性が一致しない性同一性障がいや性別違和を持つ人たちに、マイナンバー制度がすでに深刻な影響をもたらしていることが、一般社団法人である「日本性同一性障害と共に生きる人々の会」が調査した中で明らかになりました。10月から配布が始まったマイナンバーの「通知カード」と、今後、希望者が受け取る「個人番号カード」には、マイナンバーを職場に提示する際、本人の意に反して戸籍の性別が明らかにされることになります。
調査では、戸籍の性別と社会生活上の性別が一致していない当事者の約8割が、雇用主にマイナンバーカードを提示することで、「問題が起こる」または「何が起きるかわからないので見せたくない」と答えています。中には「戸籍上の性別が分かってしまう精神的苦痛に耐えられないので、すでに退職した」という人や、「偏見や差別で退職に追い込まれる」「戸籍の性別の判明と同時にクビになってきた。今度失業したらもうどこも雇ってくれない」など深刻な声が多数寄せられています。
調査結果を受けて同会は10月16日、マイナンバーカードの記載から性別欄の削除を求める要望書を政府に提出しました。さらに、同会は、就職先に届け出ている性別とマイナンバーカードに記載された性別の不一致を理由とした解雇を認めないよう事業者に周知徹底することや、再就職が困難な当事者への生活支援策などを求めています。本市でもこれからこういった事例が起こりうることを考えておられるのか、そしてこのような事例を防ぐための手立て・対策を取る考えをもっておられるのか、あわせて私の質問を終わります。
林市長:市第94号議案について、ご質問いただきました。
本市でマイナンバーが漏えいしたことについてでございますが、マイナンバーを含む市民の大切な個人情報が記載されている転出証明書を第三者の方にお渡ししてしまったということは、大変申し訳なく思っておりまして、改めてお詫びを申し上げたいと思います。再発防止に向け、処理内容の複数人によるチェックや窓口でのお客様のご本人確認の徹底など、基本に立ち返り、確実な遵守処理を行ってまいります。
性別の記載についての配慮についてですが、性別をはじめ通知カード等の記載事項については法令等で定められておりまして、本市独自で記載しないということはできません。なお、個人番号カードの交付にあたっては、性別欄やマイナンバー等をマスキングできる専用のケースをお配りする予定でございます。
以上、宇佐美議員のご質問にご答弁申し上げました。