2022年8月31日
横浜市長 山中 竹春 様
日本共産党横浜市会議員団
団長 荒木由美子
旧上瀬谷通信施設地区は戦前は日本海軍の戦後はいったん返還されたものの、米軍の通信施設として接収され、その後70年土地利用が制限されてきました。現在、農地や緩やかな起伏の草地など豊かな自然環境が広がり、4本の川があり、谷戸地形等が残される中で貴重な生態系が残されています。その地を、民有地も国有地も市有地も一体的に開発できるようにと特区申請がされ、法改正が行われて今回の土地区画整理事業へと進んでいます。2015年6月に米軍基地が返還され、瀬谷区では地域のみなさんが瀬谷区上瀬谷通信施設返還対策協議会を15年7月に立ち上げ、区と一緒になって跡地利用の検討を進めてこられました。そして、19年には将来に向けたより良い開発を願い要望書も市長あてに出されています。地域の活性化、高齢化社会に対応する医療・福祉の施設、川を含めた自然環境の適切な保全、下流域を考慮した総合治水対策、持続可能な都市農業の展開、周辺住民に理解を得たうえでの事業推進を要望されました。今回の事業計画が、これらの要望に応えたものとなっているのかどうか重要です。
私たちは、この切実な要望も加味しながら、今回の公共事業事前評価調書に対しての意見を提出します。
事前評価は事業の全側面について公平・公正の視点から評価し直しを
1)事前評価というならば、この事業で造成された土地が有効利用されるかどうかを評価すべきです。
2020年3月に策定された旧上瀬谷通信施設地区利用基本計画には、農業振興、観光・賑わい、物流、公園・防災の4つの土地利用ゾーンが面積配分とともに示されています。4つの土地利用ゾーンは、22年8月26日の都計審が可決した旧上瀬谷通信施設地区土地区画整理事業計画で、一部修正されました。明記されていませんが、観光・賑わいゾーンには70㌶が配分されると聞いています。当初計画125㌶の4割削減は、テーマパーク誘致を見込む同ゾーンへの国有地配分を見直した結果であり、当然の措置とはいえ、適切な判断です。
党市議団がもっとも憂慮しているのは、テーマパーク誘致計画がコンセプトが示されただけで、いまだ構想・検討段階にとどまっていて、進出希望事業者名やその数など事業化の見通しが具体的に明らかになっていないことです。766億円もの巨費を投じる土地区画整理事業であり、その事業費の相当部分をテーマパーク事業者への保留地処分で賄う計画という点から、事業着手にあたってはテーマパーク誘致の実現性を明らかにすべきです。事業の必要性の検証と事業効果の評価を柱とした今回の事前評価については、造成土地の有効利用についての事業性・現実性についての判断をしておらず、再評価を求めます。
2)「事業の必要性」にかかわって
・地域の現状についての認識が地権者だけに焦点を当てており一面的すぎます。地域の現状というならば、国有地・市有地が半分を占めていること、同区域及びその周辺には生物多様性保全上重要な里地里山に選定されている「三保・新治、川井・矢指・上瀬谷」及び「瀬谷市民の森」等が存在していること、豊かな自然環境、広々とした農地景観が保たれていることに言及した記述を、市民への正確な情報発信として地域の現状規定に加えるべきです。
・新たな都市的土地利用についての事業の必要性について市民が判断するには、どういう施設を立地させようとしているのか、倉庫・テーマパークなど具体的に示すことが必要です。
・事業の優先度について、ここでも地域の現状規定と同様に、基地として約70年間にわたって土地利用を制限されてきた地権者の早期の生活再建が求められていることを唯一の根拠としています。元々地域では農業がおこなわれていた経過からも生活再建といえば農業の継続といえますが、それはこの間叶わぬものとなりました。その方々の生活再建の責任を負うのは国であり米軍であるはずです。また、地権者から暮らし向きが厳しい、生業が行き詰まっているといった切迫した声は聞こえてきません。生活再建とは災害等で財産を失い、あるいは収入の道を断たれた結果、これまで通り生活ができなくなった場合に用いられる概念であり、旧上瀬谷通信施設地区の地権者の置かれた状況を表現する言葉としては適切ではないと思います。事業の優先度の根拠とするには無理があります。評価のやり直しを求めます。
3)環境への配慮について
・「豊かな自然環境をいかした土地利用の検討を進めるとともに、地区全体で多様な機能を持つグリーンインフラを活用することとしています。」と記していますが、熟慮しどうすれば自然を残せるのかを考えたものとは思えません。
・観光・賑わいゾーンにはまとまった緑豊かな生態系が形成されています。ここは計画では、盛り土・切土による既存土地の全面的改変が行われ、ゾーンの東寄りを南に流れる相沢川は切り回しのうえ、暗渠化されます。豊かな自然環境を生かした土地利用とは到底言えません。環境への配慮というならば、計画している土地造成工事のあり方の抜本的見直しが欠かせません。進出予定の事業者に対し、展開する事業と豊かな自然環境と両立することを進出の条件することは市としてできるはずです。
以上