横浜市長 林 文子 様
2013年10月2日
日本共産党横浜市会議員団
団 長 大 貫 憲 夫
林市長におかれては先の市長選挙で再選され、改めて横浜市政の舵取りをされることとなり、9月25日に「平成26年度予算編成スタートにあたっての市政運営の基本的な考え方」(以下「基本的考え方」)を発表されました。2014年度に新たな中期計画がスタートします。その初年度となる2014年度の予算編成は、これまでの単なる延長線上での考え方で行うべきではありません。
わが党として、市政運営上の基本的問題について重要な点に絞って、以下、提案させていただきます。
本市行政水準の実態の把握を
市長は、「基本的考え方」の「原点に立ち返って、さらなる進化を」において、これまで以上に「おもてなしの行政サービス」を徹底させて市民との「共感と信頼」の関係を深めていこうとしています。
確かに職員の市民に対する接遇は大切です。しかし、市民が求めているのは「おもてなし」ではありません。市長選で市長が掲げた「横浜市民くらし満足度ナンバーワン宣言」の考えについて第三回定例会でわが党が行った質問に対して市長ご自身が答えた「横浜市はあらゆる分野においてくらしやすい街とし、より満足して日々の生活をいきいきと送っていただく、横浜市民でよかったと実感していただく」ということを実現するための施策を実行することを求めているのではないでしょうか。
例えば、小学1年生までという県内最低レベルの小児医療費助成制度、国水準だけで市単独では実施しようとしない35人以下学級、全国の8割を超す中学校で実施されている給食の未実施、突出した国民健康保険証取り上げ、5000人以上もの人が入所待ちしている特別養護老人ホーム等々の問題を、まず解決しなければなりません。
市長は、2期目の所信表明でも「現場主義」を導入してきたことを強調しておられます。2014年度予算編成に当たり、市長ご自身が「現場主義」の立場から、市民生活に関わる本市の行政水準の実態を把握し、市民から求められている水準との乖離をしっかり認識されることが予算を編成する上での大前提です。
時代の変化に対応する安心で豊かな都市づくりを
今後日本は人口が減少し、同時に少子高齢社会を迎えます。横浜市も2019年をピークに人口減少に転じ、2030年には65歳以上が28.7%と予測されています。
この人口減少・少子高齢化という時代の趨勢は、経済をはじめとする社会基盤すべてに、画期となる政策的変化を求めています。これからますます求められるのは、市民が豊かに安心して暮らすことのできる災害に強く環境にやさしい「まち」であり、地域の特色を活かすことのできる住民発意による「まち」です。人口減少・高齢化が進むなかで、「まち」を活性化させる鍵は、住民自治の育成及び行政と住民の協働の発展です。
人口370万人の巨大都市横浜市では市役所組織が大規模化している上、中田前市長時代に保健所、建築事務所や水道局の住民窓口などを区から切り離して本庁に集約したため、いっそう住民と行政の距離が離れてしまいました。
第30次地方制度調査会の答申が指摘しているように、住民に身近な行政サービスを住民により近い所で提供することや、住民が積極的に行政に参画し易い仕組みを検討し、住民に身近な行政区・区役所にすることが必要です。
本市経済の内発的発展の道を
市長は「基本的考え方」で、「国家戦略特区」など国のグローバル経済戦略に乗り、最先端の医療関連産業の創出や都市のリノベーションによる競争力強化を図り、日本の成長エンジンとなりうる強力な横浜経済を実現するとしています。そのために、国際コンテナ戦略港湾の機能強化に向けて南本牧MC-4の整備や本牧沖での140ヘクタールの新たな埋め立て、高速横浜環状道路整備などを進めようとしています。
しかし、これらの大型公共事業による本市経済への波及効果は、これまでの高速道路整備や大水深コンテナバース整備などで明らかなように、スーパーゼネコンなどの大企業にあるだけであり、市内中小企業への波及は微々たるものです。
国の政策に無批判に乗った経済政策を進めることは、莫大な借金と維持保全費を後世に引き継ぐというと負の部分があるということを認識すべきです。これまで数次に及ぶ全国国土総合開発計画に乗り、業務核都市構想などに基づく大型公共事業を推し進め、多額な借金を抱えてしまった歴代の市長と全く同じ政策を繰り返してはなりません。
これからの本市経済に求められるのは、なによりも370万の市民パワーに依拠した経済・産業政策を打ち出し、福祉の充実と本市経済を両立させて発展させることです。市内産業の集積を資源とし、市内企業間の主体的経済活動によって雇用・所得を持続的に生み出していくという本市経済の内発的発展の道を開拓し、その方策を徹底して進めることです。
例えば、国に「国家戦略特区」として提案した最先端の医療関連産業の創出ではなく、本市中小企業を中心とした医療・介護・健康関連産業を発展させることです。本市経済局の調査では、本市が持つ国内第2位の人口規模自体が巨大な内需力を生み出し、経済循環が地域で完結する割合が高いため、これらの産業は横浜経済の内発的発展の主要な分野であると指摘しています。さらに、この分野の成長は、生産額の向上による経済規模の拡大や地域経済の成長につながるだけでなく、地域に豊かさと安心感をもたらし、雇用の創出、医療や介護機能の充実と向上など、地域の質的な成長を促すものと結論づけています。
栄区の中小企業が画期的な蓄電池を開発しているように、環境エネルギー産業でも太陽光発電や太陽熱利用、新築やリフォーム時の省エネ工事など、その発展が大いに期待されます。
このように、これまでの国主導による大型公共事業中心による大企業だけが恩恵を受ける経済成長戦略から、医療・介護・健康関連産業や環境エネルギー関連産業等々、市内経済産業育成に大きく舵を切り替えることが必要です。
なお、横浜市はこれまで経費助成や税軽減などにより企業誘致を進めてきましたが、恩恵に預かったのは大企業がほとんどです。一方、進出企業による市内企業への波及効果はそれほど大きくないと言われています。以前から党市議団が主張しているように、環境条件さえ整えば税を投入しなくても企業は進出してきます。この際、もう税金を使っての企業誘致策はやめるべきです。
社会保障拡充に使われない消費税増税の4月実施に反対を
安倍首相は10月1日、来年4月に消費税を5%から8%に引き上げることを表明しました。消費税増税は、本市経済と本市の財政に大きな影響を与えます。横浜市における課税支出や消費税納付額については、全会計ベースで150億円程度の支出増が見込まれています。
市長は、第三回定例会におけるわが党の質問に対し、「社会保障改革はもはや待ったなしの状況なので、厳しい環境にある中小企業や社会的に弱い立場のみなさまなどへの充分な配慮を行った上で、消費税を引き上げることは必要」と答弁されました。
しかし、8月に提出された社会保障国民会議報告書と8月に閣議決定されたプログラム法案に見るように、自公政権による社会保障制度の改革は生活保護費の削減、介護保険要支援の切り捨て、医療費70歳から74歳までの窓口負担の倍増、支給額を減らすマクロ経済スライドの毎年実施や年金支給年齢の引き上げなどであり、社会保障の充実・改革ではなく、切り捨てそのものです。また、9月12日に安倍首相が消費税増税による景気の腰折れを防ぐために、3%増税分の2%にあたる5兆円規模の大規模な経済対策を合わせて行う方針を決めたことからもわかるように、国が消費税増税分を経済対策の財源にまわし社会保障拡充のために使う保障はありません。
国の悪政から住民を守ることは地方自治体の重要な任務のひとつです。その立場に立てば、市民生活を窮地に追い込むアベノミクスの社会保障制度切り捨て・後退に明確に反対すべきであり、少なくとも来年の4月の増税は中止をするよう国に求めるべきです。
米原子力空母ジョージ・ワシントンの原子炉事故から市民を守るために
市長は、第三回定例会におけるわが党の質問に対して、「将来的には原発に頼らず自然エネルギー等に転換していくことが望ましい」としながらも、「経済の側面、地球温暖化などさまざまな影響を考慮し、総合的に判断していく必要がある」と述べています。
現実には、東京電力福島第一原発の高濃度放射能汚染水が流出し、レベル3という危機状態が続いており、原発事故は制御できない事態を引き起こし、人類及び生態系に取り返しのつかない被害と影響を及ぼすことがいっそう明らかになっています。福島第一原発事故を「対岸の火事」としてはなりません。我が国最大の指定都市の長として原発再稼働反対を明確に打ち出すことを求めます。
二基の原子炉を搭載する米原子力空母ジョージ・ワシントンは、本市に隣接する横須賀を母港としており、本市のほとんどは同基地から30キロ圏内に入ります。原発から30キロ圏内の全国の156の自治体は、原子炉事故に備えて地域防災計画を見直していますが、370万の全横浜市民が避難することは事実上不可能であることから、原子力空母ジョージ・ワシントンには国外退去してもらうしかありません。市長は370万市民を原子力空母の原子炉事故から守るため、関係県市連絡協議会の一員として説明と対応を求めるだけでなく、直接政府に撤去を要求すべきです。
自民党による教育への政治介入の拒否を
市長選前の6月13日、市長は戦争賛美の皇国史観に基づいた「新しい歴史教科書をつくる会」系の教科書に関わる政策協定を自民党と結んだという内容が、新聞で報道され、これらの真偽について市長は「政策協定に関することについてはお答えは差し控える」と述べています。
教育への政治不介入という原則に抵触する内容を秘密裏に自民党と協定を交わしたとなれば、市長の市民に対する背信行為と言わざるを得ません。政治権力は教育を支配してはなりません。政治責任は重大です。市長は直接教科書採択に関与できませんが、それを承知で自民党と協定を結んだとしたら、「つくる会系」教科書採択に賛成する人物を教育委員に任命することを約束したことになります。
この教科書をめぐる問題について、自民党との政策協定の内容を公開し、教科書採択にあたっては政治的介入はしないし許さないという態度を明確にすることが必要です。
以上、2期目を迎えられた市長の最初の2014年度予算編成にあたってのわが党の基本的な要望・考えを提示させていただきました。今後4年間の任期においては、なによりも370万市民の命、暮らし最優先の市政運営を望むものです。そのために、わが党も全力をあげ協力することを表明します。
なお、具体的な予算要望については、2012年度決算特別委員会終了後に行う予定です。