日本共産党を代表し、議第7号議案 「緊急事態に関する国会審議を求める意見書」の提出に反対の立場から討論を行います。
この意見書案は、新型コロナウイルスの感染症の拡大によって、医療崩壊の危機を招く事態が発生したことや、東日本大震災で震災がれき撤去の遅れ、被災自治体の行政機能が停止したことなどを理由に挙げ「感染症や自然災害に強い社会をつくることが必要である」として、国会で関係法令のあり方について議論を促進することを求めています。
この意見書に反対の理由の1つ目は、新型コロナウイルス感染症の拡大による医療崩壊は、憲法に緊急事態条項がなかったから起きたことではないということです。この医療崩壊の背景には、社会保障の予算を抑制・削減してきた歴代政権の「新自由主義」の政治があります。長年にわたる社会保障費抑制政策が、日本の医療と公衆衛生を弱体化させ、その矛盾がコロナ危機で一気に表面化したものです。その上、ワクチン接種の遅れやPCR検査体制の不足など後手後手の対応に終始してきた政権の責任は、重大です。「感染症に強い社会」をつくるためには、感染症病床や保健所体制を拡充し、医師・看護師を増やして医療提供体制を拡充することこそ必要です。コロナ禍で求められていることは、憲法を改正して緊急事態条項を設けるのではなく、憲法の理念に則した政治を実現することです。
2つ目の理由は、大規模自然災害に対しては、災害対策基本法や災害救助法、大規模地震対策特別措置法など、現行の法制度を最大限活用することで対応が可能です。東日本大震災の教訓を踏まえて、国は2013年から2015年まで毎年、災害対策基本法を改定し、1つ、災害により地方公共団体の機能が著しく低下した場合は、国が災害応急対策を応援し、応急措置を代行すること。2つ、緊急車両の通行ルートを迅速に確保するため、道路管理者による放置車両対策の強化に係る措置を講ずること。3つ、特定の大規模災害の場合、一定の要件のもと環境大臣が災害廃棄物の処理を代行することができること等を定めました。大規模自然災害において、本意見書で指摘されている事項については、既に法律で定めらており、憲法に緊急事態条項を置く必要性は、全くありません。仮に、今の法律が不十分で対応できないことが明確になった場合には、法律を改正すれば済むことです。
そもそも憲法における「緊急事態条項」とは、憲法上の基本的人権の保障や議会の権限を停止し、内閣総理大臣に全権力を集中して、国会の関与なしに法律と同じ効力を持つ政令を出す権限を与える条項のことです。「緊急事態条項」が乱用され、人権を侵害し、言論抑圧につながる危険性は、世界の歴史からも明らかです。第二次世界大戦前のドイツでは、ワイマール憲法48条の「大統領非常権限」が乱用された結果、ナチス・ヒトラーの独裁政治に道をひらきました。日本でも明治憲法下の1923年の関東大震災の際、戦時に軍隊に権限を集中する戒厳令の一部を緊急勅令によって施行した結果、朝鮮半島から日本に移り住んでいた人々への虐殺といった事件が引き起こされました。戦後制定された日本国憲法で緊急事態条項を設けなかったのは、こうした痛苦な経験を踏まえたからです。
私たちは、こうした歴史の教訓から学び、立憲主義、三権分立、そして人権を尊重する現行法体系のもとで国民の命とくらしを守る政治の実現をはかることこそ重要であることを強調したいと思います。
以上の理由から本意見書に反対することをあらためて表明し、討論を終わります。