※実際には、質問と答弁がそれぞれ一括して行われましたが、わかりやすいように、対応する質疑と答弁を交互に記載しました。
大貫議員:私は、日本共産党を代表して、市長に質問します。
まず、市報第10号について質問します。
本議案は、2009年度の途中で他社に事業委譲した港北区の「ゆめみらい保育園」と中区の「馬車道保育園」の二つの保育園を経営していた株式会社エキスパートシステムに対し、概算払いをした2009年度の保育所運営費等の清算戻し入れ金と支払い済みになるまでの遅延損害金の支払いを求めるもので、このこと自体は当然のことだと思います。
今回の専決処分報告は、訴訟に至る過程で、株式会社の保育所運営に係わる横浜市のリスクマネージメントの不備を露呈させました。たとえば、保育所運営費から親企業への貸付金や、弾力運用の名によって流用されたと思われる使途不明金の問題です。
株式会社エキスパートシステムは、人材派遣会社です。
保育園運営の株式会社、1億4,111万円もの不明金を許した市の責任は
当局の調査では、エキスパートシステムの保育所経営での使途不明金は、分かっただけで、貸付金で1億2,639万円、弾力運用等で1,472万円、合計で1億4,111万円と多額で、しかもきわめて杜撰な会計処理が行われていました。2009年度だけでも、「ゆめみらい保育園」へ支払われた運営費約9,000万円に対し、3分の2の約6,000万円が使途不明金になっています。なぜこれほどの使途不明金を許してしてしまったのか、この処理をどうするのか、そして市の責任をどう果たすのか、伺います。
林市長:大貫議員のご質問にお答え申し上げます。
市報第10号についてご質問をいただきました。
保育所運営費については、本市として、廃園にいたるまでの間、適切な会計処理を行い、適正な決算書等を作成するよう、改善指導を行うとともに、当該園の運営が安定するよう指導に努めてきました。また、ご指摘の金額については、現在エキスパートシステム側に使途の事実確認を行っているところです。事実確認の結果、使途が不適切と認められた金額があった場合、国や弁護士等に対応方法を相談の上、適切に対応します。今後このようなことが発生しないように努めることで、保育所運営に関する本市の責任を果たしてまいります。
保育所運営費の貸付、弾力運用は原則禁止すべき
大貫議員:一定の条件のもとで、保育所運営費を親会社に貸し付けることができます。しかし、保育所運営費にそれほどの余裕があるのでしょうか。
実際、この二つの保育園が廃園した理由のひとつに、職員の定着率が悪くなり、担任の入れ替わりが激しいなど、保護者に不安が広がったことがあります。職員の定着率は、その労働条件が決め手です。人件費が貸付金として親会社に流用されていたと考えるのは、当然ではないでしょうか。
貸付金は、国の規定でも「認められるものである」と曖昧な規定になっています。本市では、保育所運営費の親会社への貸し付けを原則禁止すべきと思いますが、市長の見解を伺います。
保育所運営費の弾力運用についても同様です。保育所運営費は、子どもたちの毎日毎日の生活に欠かせない経費など、保育所の運営のための最低限度の経費です。まともな保育をするならば、貴重な運営費を他に回すことはできないはずです。国の規定で保育所運営費の運用方法が定められていますが、弾力運用は「出来る規定」になっています。保育所運営費が100%保育所運営のために使われるように、弾力運用についても原則認めないという立場を取るべきだと考えますが、いかがでしょうか。
林市長:保育所運営費の貸付を原則禁止すべきとのご意見についてですが、本市としては保育運営費の財源に国費が入っていることもあり、国が定める基準に従って貸付金の処理を行っています。なお、国の基準を運用するにあたり、厳格に指導監査を実施するとともに、基準違反がある場合には改善に向けた指導を徹底します。
弾力運用を原則として禁止すべきとのご意見についてですが、本市としては保育所運営費の財源に国費が入っていることもあり、国が定める基準に従って弾力運用の処理を行っています。先ほども申し上げましたが、国の基準を運用するにあたっては厳格に指導監査を実施するとともに、基準違反がある場合には改善に向けた指導を徹底します。
保育所運営失敗を教訓に再発防止策を
大貫議員:エキスパートシステムが、年度途中で保育所事業から撤退した最大の理由は、同社がもっていた保育所運営のノウハウが極めて貧弱で、経営者側と現場の職員との連携や認識の違いが顕在化したためと、聞いております。
株式会社への保育所認定は、国の定めた基準に適合していれば「よし」とされていますが、それだけでは不備だということが今回明らかになりました。保育所運営能力の問題を保育所設置認定の基準に加えなければならないと考えますが、市長の見解を伺います。
今回のエキスパートシステムの保育所運営の失敗をケーススタディとして、再発防止策の必要があると考えますが、市長の見解を伺います。
林市長:認可基準に保育所運営能力を加えるべきというご意見についてですが、保育所の認可にあたっては、児童福祉関係法令や建築関係法令、厚生労働省通知などの基準に基づき、設備・職員の配置、保育内容について審査しています。なお、整備費助成を決定する際や、整備についての事前相談がされた時には、法人代表や施設長予定者の面接、申請法人がすでに他都市で運営している施設の状況把握などを行い、法人の保育運営の考え方や具体的な運営内容などを確認しています。
再発防止策についてですが、今回の件を踏まえ、認可後、年度途中などで保育所が廃止とならないようにするため、これまで以上に指導、監査および運営指導を徹底していくほか、改善が図られない保育所に対しては、特別指導監査など必要な措置を実施していきます。また、保育所の運営に課題が生じた場合は、区役所とも連携し、迅速に対応することで、再発防止に向けて取り組みます。
危険な「子ども・子育て新システム」制度に反対を
大貫議員:いま政府は、我が国の保育制度を根本から変える「子ども・子育て新システム」制度を検討しています。子ども・子育て支援に関わる体制と財源の一元化、市町村による自由な給付設計、幼稚園・保育所の「こども園」への一体化、多様な保育サービスの提供などを実現するとしていますが、その本質は、介護保険のように市町村が保育度の認定をする制度を導入して、保育の市場化を進めようとするものです。さらには、保育の質の低下も懸念されます。
今回の問題は、株式会社への保育所認可、保育の市場化が、保育事業にとって重大で危険な要素を持っていることを明らかにしました。市長は、この問題からしっかりと教訓を引き出して、保育の市場化を推し進める「子ども・子育て新システム」に明確に反対の態度を取るべきと考えます。市長の見解を伺います。
林市長:「子ども・子育て新システム」に対して明確に反対すべきとのご意見についてですが、幼稚園の許認可・指導は神奈川県、保育所については本市というように、所管等が分かれている事業を包括的一元的な制度に再構築し、実施主体を市町村とすることは評価します。一方、新システム導入にあたっては、サービス基盤の確保や利用者負担のあり方、財源の確保、地方の負担など、様々な課題がありますが、具体的な内容は示されていません。今後本市においても制度の研究、検討を行い、制度設計に関して意見の提起をしていきます。
ニートや引きこもりの増大は経済基盤の崩壊にも係わる重大な事態
大貫議員:次に、市第59号議案一般会計補正予算に係わり、若者サポートステーション機能強化事業について質問します。
いま、様々な理由で働きもせず、求職活動もしていない若年無業者、いわゆる「ニート」と呼ばれている若者や、ひきこもりの若者などが増大して、社会問題化しています。15歳から39歳までの若年無業者は、政府の統計では2008年に全国で84万人、今年2月の内閣府の調査では、将来引きこもりになる可能性のある若者が155万人に達するとしています。横浜市も例外ではありません。この様な若者の社会的自立をめぐる状況について、市長はどのような認識を持っておられるのか、伺いたいと思います。
ニートや引きこもりの若者の増大は、若者の職業能力が蓄積されず、中長期的に競争力・生産性が低下していくなど、経済基盤の崩壊にも係わる重大な事態に発展し、さらには社会保障システムを脆弱化し、社会不安を増大していく可能性があります。
何よりも、当事者である若者たちが苦しんでいます。その対策として若者たちの総合相談を受ける若者サポートステーションが国の委託事業として全国で100か所、本市で2か所開設され、さらに広がりつつあります。しかしながら本市の場合、若者サポートステーションへの累計登録者は今年3月の時点で1,312人と、市内4万3,400人といわれるいわゆるニートといわれる若者たちのほんの一握りでしかありません。その事業の重要さを考えた時、あまりにも少なすぎると考えます。この現状についての市長の見解を伺います。
林市長:市第59号議案について、ご質問いただきました。
若年無業者の状況についてですが、若者全体の雇用情勢が厳しい状況にあるなかで、自宅に引きこもっていたり、学校を中退したまま無業であるなど、困難を抱える若者たちの将来に対する不安や焦りはいかほどであるかと、胸が痛みます。本市といたしましても、今回の若者サポートステーションの機能強化事業などを通じて、困難を抱える若者たちに対する就労支援を一層拡充していきたいと考えています。
市内若年無業者数に比べ、若者サポートステーションの登録者数が少ないことについてですが、現在横浜若者サポートステーションは一日に4~7名のスタッフで、平均22名の利用者の相談、支援を継続的に行っており、新規登録者の相談は3週間待ちの状況になっております。今回、若者サポートステーション機能強化事業によって、各サポートステーションに新たな相談員を配置するのは、このような状態を少しでも解消し、より多くの若者に対してきめ細やかな支援を行っていくものです。
大貫議員:若者サポートステーションの利用が少ない理由は、その存在や事業の大切さが、悩み苦しんでいる若者たちやその親たち、さらには若者を取り巻く広範な組織、そして企業に知られていないことではないでしょうか。何よりも必要なことは、もっと予算を付けて、事業を拡大し、さらには民間の力を借りて協議会やネットワークをつくり、事業を周知徹底することです。どのようにお考えでしょうか。
林市長:協議会などのネットワークをつくり、事業を周知していくことについてですが、横浜若者サポートステーションでは若者の雇用の受け皿となる企業に、事業に対する理解をいただき、連携を図るため、市内企業で構成される経済団体などとの情報連絡会を開催しています。このほかに、福祉や医療、保険など、関係機関との定期的な連絡会によって事業に対する周知を図り、ネットワークを広げてまいります。
大貫議員:このニート問題の要は、困難を抱える若者を早期に発見し、困難の深まりを早いうちから防ぐことです。特に、高校を中退したり就職に失敗するとニート状態に陥りやすいとされ、年齢を重ねても抜け出しにくいという実態があります。
横浜総合高校では、例年360人が入学して、160人前後が中途退学し、残りの約3分の1が進路未決定で卒業していく状況にあります。つまり、ニート予備軍が続々とつくりだされているということになります。この状況を打開するためには、中学・高校での就業の訓練や就職指導が必要です。
中途退学者等への訪問支援も大切です。また、学力を含む基礎力向上に向けた学び直しを支援することも必要です。これらの点を含めて、サポートステーション事業を担当するこども青少年局と教育委員会との連携が重要と考えますが、市長の見解を求めます。
林市長:困難を抱える若者に移行しやすい高等学校中途退学者に対する対策の充実についてですが、若者が高校を退学してしまうと、なかなか支援の糸口を見出すことができないのが現実です。現在、本市では戸塚定時制高校と若者サポートステーションとの連携によって、仮に中退したとしても、若者をスムーズに就労支援機関につなぐための取り組みを始めています。このような取り組みを広げていくことで、高校中退者に対する対策を充実させていきたいと考えております。
大貫議員:若者サポートステーション事業で一番大切なのは、行政が該当する若者たちに「君たちを、決して見捨てない」という強いメッセージを送ることではないでしょうか。横浜市と市内企業の責任で、就業の場という受け皿をつくることがなければ、画竜点睛を欠き、この事業の最終目的は果たせないと考えます。特に、市内企業に社会的存在として認識を高めていただいて、積極的に協力してもらわなければなりません。そのための具体的手立てを伺って、私の質問とします。
林市長:困難を抱える若者の雇用の場を増やしていくための市内企業に対する働きかけについてですが、本市では20年度から市内の事業所に対し、インターンシップをお願いしており、これまで30社を超える企業に実習の機会をいただいております。また、今年度より、理解のある事業所による職業訓練から雇用、そして定着支援までをきめ細かく行う就業定着支援事業を開始しました。このような取り組みにより、企業と困難を抱える若者とが直接つながる機会を積極的につくりだし、その様子をインターネットを通じて社会に広く知らせることで、若者の雇用の場をつくりだす必要性について、理解を広めてまいります。
以上、大貫議員のご質問にご答弁申し上げました。