見解/声明
2007年9月14日

横浜市敬老特別乗車証制度のあり方検討に関わる「中間取りまとめ(案)」に対する見解

2007年9月14日     日本共産党横浜市会議員団   団 長  大 貫 憲 夫

 9月10日、第4回「横浜市敬老特別乗車証(以下、敬老パス)制度のあり方検討会」(以下、検討会、会長高橋紘士立教大教授、委員9人)において「中間取りまとめ(案)」(以下「案」)が提案されました。
 横浜市の敬老パスは、市内の70歳以上の高齢者31万人が利用し、安心してどこにでも出かけられると大変喜ばれています。高齢化社会を迎え、高齢者の社会参加を支援することが求められ、そのためにも敬老パス制度の拡充は市民の願うところです。
 ところが、「案」の制度見直しの考え方は、市民の願いに背をむけるものになっています。

第1は、目的にある「社会参加」の意味を矮小化したことです。

 「案」では、「社会参加とは、地域社会において何らかの活動を意欲的かつ能動的に行い、自己実現を図ること」「いわゆるボランティア活動や趣味・娯楽など」と社会参加の意味を限定し、通院や日常の買い物といったいわゆる「外出」全般は社会参加とは違うとしています。しかし、検討会のアンケート結果では、「趣味・レジャー」34.6%、「ボランティア」5.8%だったのに比べ、「日常の買い物」59.8%、「通院」59.9%と高く、むしろ「外出」全般に利用されていることがわかります。これでは利用者の多くが「案」の目的からはずれてしまいます。
 検討会でも「高齢者の外出と介護予防に関して縦断的な長期にわたるデータもでている」という意見があったように、「外出」全般への支援こそ、介護予防にのみならず、健康増進、買い物等による経済効果、街の活性化、環境保全、交通安全など相乗的効果を生み、「高齢者の社会参加を支援し、もって福祉の増進を図ること」とした敬老パスの目的にかなうものです。

第2は、利用回数に一定程度の上限を設けることもやむを得ないとしたことです。

 現行の敬老パスは利用回数に制限がなく、負担を心配しないで何回でも利用できるところに最大の利点があります。
 ところが「案」では、前述したように「社会参加」の意味を限定した上で、「社会参加の支援という制度の目的に照らして、一定程度の利用制限を設けることはやむを得ない」としています。しかし、「利用者の外出意欲を著しく低下させないよう配慮が必要」とわざわざ書かざるを得ないほど、利用回数の上限設定は、外出を妨げる障害となることは避けられません。

第3は、応益負担の考え方を取り入れるのが望ましいとしたことです。

 現行の敬老パスは、利用者の収入に応じて事業費の一部を負担する応能負担です。市民税非課税者(利用者の49.6%)は年間2500円、市民税課税者(年間合計所得700万未満、利用者の40.3%)は年額5000円を負担しています。
 ところが「案」では、「利用者によって利用回数に差があることから、利用回数に応じて費用を公平に負担する応益的な受益者負担の考え方を取り入れていくことが望ましい」としています。利用するたびに運賃を払うことになれば負担増は必至です。低所得者ほど負担感が高くなり「利用回数により負担する」応益負担が、福祉の制度と相容れない所以です。
8月に出された「中間取りまとめ」素案(以下「素案」)では、「応能負担はいわゆる『所得の再分配』という考え方に沿ったものであり、福祉の制度としては納得できる」との論点もありましたが、「案」ではそれらがすっかり消えています。応益負担の導入は、福祉の制度としての敬老パス制度が形骸化・変質される重大な問題です。

第4は、厳しい財政状況を前面に出した「利用者負担増ありき」の制度見直し背景の描き方です。

 「案」は、見直しの背景として、横浜市の厳しい財政状況を前面に出し、推定による将来の交付者数の増加や市費負担の増大を図入りで示し、「利用者負担増ありき」と思わせる描き方をしています。財政の厳しさは、検討会の議論でも各委員の意見に縛りをかけるものになっています。
 そんな中でも、財政の厳しさを否定しないまでも、事業者への支払い額の根拠(利用回数)の曖昧さ、他分野の事業費との比較、多額の人件費を指摘するなど市費の使い方についての意見が出されたことは重要です。
 また、「案」では「この制度に、どの程度の市費を投じることができるのかということは、市の判断になる」とも書かれており、敬老パスへの市費負担として83億円(2007年度)を限界とみるのか、100億円を限界とみるのかは、市の判断というわけです。まさに、政策的に何を優先させるのか、市の姿勢が問われています。

第5は、利用者の意見が反映されていないことです。

 検討会において、老人クラブの委員から「事務局は方向性を急いでいる」「アンケートにもあるように、大多数の人が現状維持を望んでいる」「敬老パスはあと4~5年位はこのままの状態でお願いしたい」との意見が出されました。「素案」の段階において、特に市民の関心のある対象者の要件(対象年齢、所得制限)、利用条件(利用者・事業者・行政の負担割合、負担の方式、利用額の制限、対象交通機関)という個別の事項では、現状維持も含めた両論併記で論点整理がされ、委員の意見を反映したものになっていました。
 ところが不可解なことに、「案」ではどこにも現状維持の考え方が反映されていません。老人クラブの意見はまさに利用者の意見です。敬老パスは、利用者・事業者・行政の三者の協力で成り立つ事業と強調しながら、なぜ利用者の意見を切り捨てるのかについて説明もありません。

第6は、これから実施される市民意見をどのように検討・反映するのかが不鮮明なことです。

 検討会は、今後「中間取りまとめ」について市民意見を募集するとしています。ところが、今後の検討会開催予定は11月の最終回のみです。これでは、市民から寄せられた意見がどのように検討され、「最終取りまとめ」に反映されるのか、市民からは全く見えません。「市民意見を募集するというがガス抜きではないのか」と批判があがるのも不思議ではありません。市民意見について慎重に検討する検討会を開くよう、強く求めます。
 以上、「案」と検討会の運営のあり方の問題点について述べてきましたが、特に「素案」で示されていた利用者の意見が「案」に反映されていないなど、「素案」と「案」の内容に乖離が見られ、「案」が市当局の意を汲んだ恣意的ともとれるものになっていることを厳しく指摘せずにはいられません。

 わが党は、老年者控除や定率減税の廃止による住民税、国民健康保険料、介護保険料の負担増など、高齢者の負担増がここ数年相次いでいる状況のもとで、さらなる負担増は避けるべきと考えます。高齢者が積極的に社会とのつながりをもち、生き生きと安心して暮らせる支援策となるよう、敬老パス制度の拡充にむけて全力をあげます。 以上


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