2015年5月13日
横浜市長 林文子 様
日本共産党横浜市会議員団
団 長 大 貫 憲 夫
今般、市港湾局は、山下ふ頭開発基本計画素案を策定し、市民意見を求めているところです。
基本計画素案は、開発目標を観光振興策とし、山下ふ頭開発における導入機能として、(1)新たな横浜のシンボルとなる大規模集客施設、(2)市民や観光客を呼び込む特色のある施設、(3)海外からも人を呼び込む、滞在型施設によるリゾート空間の形成の3つを掲げています。これらを立地させて、国内外から多くの人を呼び込む賑わいを創出するとしています。そして、地区全体を山下公園側と、海側の二つのエリアにゾーニングして、山下公園側を市民や観光客を呼び込む空間、海側を国内外からの人々が滞在するリゾート空間としています。
導入する集客施設は、具体的には、宿泊施設、会議施設、飲食施設、物品販売施設、エンターテイメント施設などです。これに、カジノが加われば、統合型リゾート(IR)です。この集客施設群は、奇しくも、2014年7月に横浜商工会議所の「横浜ドームを実現する会」が公表した山下ふ頭のカジノ施設、ホテル等を描いた青写真と重なっています。基本計画素案は、全体の青写真こそ示していませんが、シンガポールのIR、マリーナベイサンズを、大規模な集客施設の例示とし、市民や観光客を呼び込む空間のイメージにも使用しています。また、リゾート空間のイメージに同じシンガポールのセントーサを使っています。
基本計画素案は、事業手法について、民間開発の実現できる範囲を見極めながら、公民連携の事業を基本とし、関係計画との整合を踏まえ、検討するとしています。整合性をはかるとする関係計画として、「進化する国際的な観光・MICE都市として、統合型リゾート(IR)や官民パートナーシップの活用等を検討します」と明記した中期4か年計画と「新たな施設整備に当たっては、・・・官民パートナーシップの活用や統合型リゾート(IR)の導入などについて検討します」と記した都市臨海部再生マスタープランを示しています。婉曲的言い回しとなっていますが、要は、IRを導入するということです。
市長が設置した山下ふ頭開発基本計画検討委員会では、IRの是非は論じられていません。しかし、委員の「IRが入ってくることを前提とするならば、色んな人がくるはずですから、そうした警備に対する検討が必要」、委員長の「IRですが、賭博的なもので凄い所ってそんなにないですよ。ただ小さいビルがあるだけで、そればっかりに依存している訳でなく」(第二回会議録より)という発言に見るように、カジノ施設の誘致は、既定方針として委員会全体が合意していることが窺われます。
問題の第一は、この開発のゴールをIRとしていることです。開発基本計画の策定作業は、山下ふ頭をIR区域とするための準備作業といっても過言ではありません。他都市に先行して、準備すればカジノ誘致合戦に有利となるという計算も働いているのでしょう。既成事実を積み上げて、カジノ立地をスムーズにすすめたいとする思惑も見えてきます。山下ふ頭をIRにするということは、議会も承知していないし、市民討議もされていません。
問題の第二は、カジノが解禁されていないなかで、IRを前提として、どういう機能、施設を立地させるかという計画を立てていることです。周知のように、解禁法案は、今国会に再提出されたところです。どの世論調査でも反対が賛成を大きく上まわっており、政権与党も一本化されていません。数に頼って解禁を強行すれば、世論の反発は必至です。カジノ実施には、解禁につづいて、カジノ設置・管理運営法の制定が必要です。よって、成立の見通しは、不透明です。廃案となれば、カジノは賭博として禁止されつづけます。IRを前提とした開発計画は、実行に移すことは不可能です。横浜市が成功例としてあげるシンガポールのIRをみると、IR面積の5%に満たないカジノがIR収益の8割近くを占めています。カジノの高収益があるからこそ、巨額投資の必要なIR施設の建設と集客性に高い施設維持が可能となっているわけです。基本計画が挙げている巨大な集客施設は、もともと、単体としては事業として成り立たず、カジノ抜きとしたら、当然のこととして、手をあげる民間事業者が出てくることはありません。そうなると、計画は一から出直しとなります。解禁法案とまったく無関係に開発の基本計画を組むことは、無責任の極みです。
問題の第三は、横浜でのカジノは国際観光業の柱とはなりえないことです。仮に、カジノが解禁となった場合は、この計画にそって事業化が図られることになります。市長は、盛んに経済効果を吹聴されていますが、私たちは、それに組みしません。市が外国でターゲットとしているのは中国北部のギャンブル客です。報道されているように、韓国で3か所、台湾で1か所と大型のIRがあらたに建設されます。中国政府の腐敗取締り強化により、中国人VIPギャンブラーが減少しています。それによって、マカオ、シンガポールでのカジノ収益も減少です。中国北部のギャンブラーが韓国、台湾をこえて、横浜に大挙押し寄せることはほとんど期待できません。
問題の第四は、日本人がカジノの食い物とされることです。山下ふ頭のIR事業者は、巨額な投資資金の回収のために、顧客の確保に躍起になります。それによってどれほどの多くの横浜市民がギャンブル依存症の犠牲となることでしょうか。韓国で自国民が利用できる「江原ランド」については、ギャンブル依存症による自殺者や家庭崩壊の増加、街に溢れる質屋など地域の活性化とは真逆の状況が指摘されています。横浜がその二の舞となることは絶対に避けなくてなりません。
問題の第五は、カジノ収益は、ギャンブルを通じた金品の移動であり、顧客の負け金とカジノ側の勝ちを相殺すればゼロになる「ゼロサム」の経済活動という点です。国民経済的には何の産出物も産まないばかりか、資源と時間の浪費です。こんな非生産的な営みが横浜の成長戦略を担えないのは誰もが認めるところです。
最後に、強調したいことは、いくら税収対策とはいえ、多くの市民を破滅においやる賭博場を貴重な港湾の公共用地に開設することは、福祉の増進を使命とする地方自治体が絶対にやってはいけないことだということです。
将来の山下ふ頭のありかたは、本計画は白紙撤回し、ゼロベースから検討をやり直すことを強く求めるものです。